2007年 平成19年 第53回 青少年読書感想文コンクール 内閣総理大臣賞


第53回青少年読書感想文全国コンクールの入賞者が、1/29に発表になりました。

このページでは、最優秀賞にあたる内閣総理大臣賞の受賞者と受賞作品を紹介します。

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●内閣総理大臣賞 小学校低学年の部

  • 静岡県浜松市立赤佐小学校2年 山崎 郁弥さん
  • ぼくがじいじにできること

 ぼくはこの本を読んで、なみだが止まらなかった。こんなことは、はじめてだったので、自分でもおどろいてしまった。と中からずっとぼくのじいじのことを考えていたからかな。

 ゆうたくんのように、いっしょにはすんでいないけれど、ようち園に入るまで、まい日あそんでいたじいじ。ゆうたくんと同じで、ぼくもじいじが大すきだ。

「台風であそびに行けないと、じいじがかさをさして、むかえに来たからびっくり。」お母さんが、わらいながら言っていた。ぼくは、おぼえていないけれど、それを聞いて、とてもうれしくなった。

 ゆうたくんのおじいちゃんは大工さんだから、手作りのおもちゃを作ってくれたけど、ぼくのじいじは、ラーメン屋さんだから、おいしいラーメンを
作ってくれるんだ。いっしょにギョーザを作った時は、くちゃくちゃになっちゃったけど、本当に楽しかった。二人でいっぱいわらったな。

 ゆうたくんのおじいちゃんは「ごくらく、ごくらく」という言葉をのこしてくれた。ぼくのじいじは「ゆっくり、ゆっくり、ていねいに」とよく言うんだ。たくさんのおきゃくさんが来て、いっぱい注文をうけた時、じいじは、こっそり言っている。

 ぼくはこの言葉が大すきで、テストが分からない時とか、友だちにいろいろ聞かれた時とにかくあせりそうな時に、この言葉を思い出すと、とってもおちつくんだ。

 でもぼくはうまく言葉にできないので、じいじに何も伝えていない。ゆうたくんのおじいちゃんみたいに、とつ然しんでしまったらどうしよう。ぼくがじいじにできることってなんだろう……。そんな時、お母さんが、

「じいじは郁弥が大すきだから、学校であったことを話すだけでも、うれしいのよ。」

と教えてくれた。そういえば、このごろあまり話してないな。これから手紙を書いてみよう。「ゆっくり、ゆっくり、ていねいに」ね。

◇登場人物に祖父を重ね

 「ゆっくりゆっくりていねいに」。市内でラーメン店を営む祖父の鈴木利夫さん(62)の口癖が大好きだ。「おじいちゃんのごくらくごくらく」(西本鶏介作)で、主人公のゆうたくんの祖父が残した「ごくらくごくらく」という言葉と同じように、口ずさむと気持ちが安らぐ。

 ゆうたくんの祖父が亡くなる場面から涙が止まらなくなった。利夫さんのことを考えながら読んでいたからだ。読み終わったあと「じいじに手紙を書こ
う」と決めた。「生まれてからずっとありがとう」と書いた。肩もみもしに行った。大きな肩で力が必要だったけれど「ありがとう」と言われたのでとてもうれ
しかった。

 白バイにあこがれているので、夢は警察官だ。「ラーメン屋を手伝いながらやればいい」とじいじも応援してくれている。「5回くらい書き直したので、とてもうれしい」と受賞の喜びを話していた。【平林由梨】

おじいちゃんのごくらくごくらく (ひまわりえほんシリーズ)
おじいちゃんのごくらくごくらく (ひまわりえほんシリーズ) 西本 鶏介

おすすめ平均
stars息子に読み聞かせています
stars小学生の子どものために買いました
stars命を見つめる心を養う
starsほんわり暖かく、でも悲しい・・・
stars「ごくらくごくらく」という言葉の魔法

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●内閣総理大臣賞 小学校中学年の部

  • 徳島県那賀郡那賀町立鷲敷小学校 4年 村上 友理さん
  • やさしい心

 書店で「スペインの子どもたちに熱狂的にしじされているベストセラー!」という本のおびに目が止まった。それがどんな内ようなのか気になり、ぜひ読んでみたくなった。

 重い病気にかかった友だちのピトゥスを助けるために、なかよし五人組のタネットが考えたあんは動物園を作ろうだった。動物園を作って、お客さんを
よんで、お金を集めようというのだ。タネットのていあんを聞いて、初めは、私もピトゥスの仲間と同じように、「えーっ、むりだよ。それはよいあんだけど、
小学生にはできっこないよ。」と思った。

 しかし、読んでいくうちに、登場人物みんなが元気で、生き生きしているので、もしかしたら動物園作りは成こうするのではと、むねがわくわくしてき
た。また、私も元気がでてきた。今までいろんな本を読んできたが、こんなに元気をもらったのは初めてであった。「いい本に出会えて良かった。こんな本がた
くさんあるといいのになあ。」と思った。

 私は何度も何度も読み返した。すると、大切なことが書いてあるのに気がついた。ピトゥスを助けるために立てた動物園を作る計画は、初めタネット一
人で、むちゃな計画に見えた。それが仲間が集まって五人になり、次に神父さん、それから町の子どもたち、動物学者のプジャーダスさんと、どんどん協力者が
ふえた。友だちを救おうと心を一つにしてがんばったので、すばらしい動物園ができた。

 動物園が成こうしたのは、「なんとかなるだろう」とか、「だれかがやるだろう」という考え方ではなく、やると決めたら、最後まであきらめないでやったからだ。

 なにをするにも初めは一人で不安だ。しかし、自分の考えをみんなに聞いてもらい、さん成してくれる仲間がふえると、それが大きな力となり、できな
いと思っていたことができるようになる。大切なのは、「やろう、やろう」という前向きの考え方と、心を一つにして力を合わせることだ。また、子どもも、大
人も、町の人みんなが自分にできることを人から言われるのではなく自分から進んでやったから、動物園は大成功したのだと思った。

 初めは、空き地に動物を集めようという計画であったが、動物園ができ、集まったのは動物たちだけではなかった。みんなの気持ちや知えや幸せがいっ
ぱい集まった。いつの間にか町の人たちみんなが実行委員で、町の人みんながお客さんになっていた。私には「ピトゥスの動物園」は、動物園につめかけたピ
トゥスを思う仲間たちや町の人たちみんなの「やさしいすがた」に見えた。「私の住んでいる町もこんな町にしたい。」と強く思った。

 この本を読んで、私の心の中にも、友だちといろんなことを、どんどんやっていきたいという気持ちがわいてきた。「自分にできることを自分から進ん
で、自分の力でする。」というやり方で、友だちによびかけ、さん成してくれる仲間をふやし、自分の未来や社会の未来を明るくしていきたい。

◇読書通じ夢抱く--村上友理さん(10)

 「スペインの子どもたちに熱狂的に支持されているベストセラー」。本の帯に目がとまり以来1週間、寝る間も惜しみ読み切った。

 重い病気を患うピトゥスの治療費を集めるため、友人たちが町中の子どもたちと力を合わせ、大人まで巻き込み動物園を作る物語。不可能と思えることを団結して成し遂げる登場人物の姿に、やさしさと元気を感じた。「みんなに伝えたい」と感想文を書き上げた。

 読書が大好きで、月10冊読破が目標。休日に遠出した際は、必ず本屋に連れて行ってもらう。「分からない事を新しく知るのは面白い」とピアノやそろばん、英語などにも挑戦するが、最も手ごわいのは「お父さんの本」。辞書を片手にページをめくるが、難しい。

 中でも「赤十字の父」アンリ・デュナンの伝記が心に残っている。病気に苦しむピトゥスの姿も忘れられない。「お医者さんになり病気に苦しむ人を助けたい」。読書を通じ、将来の夢も生まれた。

 物語の最後のページに、お気に入りの挿絵がある。完成した動物園が大勢の人でにぎわっている絵だ。「この本の動物園のすばらしいところは、動物だけでなく、みんなの気持ちや知恵、幸せも集まったところです」。にっこりとほほ笑んだ。【深尾昭寛】

ピトゥスの動物園
ピトゥスの動物園 サバスティア スリバス Sebasti`a Sorribas 宇野 和美

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●内閣総理大臣賞 小学校高学年の部

  • 滋賀県高島市立新旭北小学校 5年 武田 慶信さん
  • 「両親をしつけよう!」を読んで

 引っ越しを境に<ガリ勉村>に住むことになってしまったルーイ。あまり勉強が得意ではないルーイにとって、これは不幸な出来事だっただろう。しか
もルーイの両親が、テオの両親や先生に影響を受けて、ルーイに勉強するよう、しつこく言い始めたから、大変だ。自分に興味のないことをやらされ続けるの
は、つらい。ぼくは絵を描くことが苦手だ。だから、毎日、絵を描く授業があり、毎日、絵を描く宿題があったら、たまらない。ルーイのように、毎日、日記く
んに書くことになるだろう。でもルーイのようにうまくは書けない。

 ルーイは笑いの天才だ。ルーイの毎日の日記を読んでいて、ぼくは、笑い転げた。ルーイがうその欠席届を出したのが先生にわかって、停学になったと
き、普通なら、「しまった。」と思うのに、ルーイは、「学校はどうしてよぶんの休暇を罰と思うわけ?」と言っている。そして、それを知って、いかりのため
に顔を真っ赤にしているお父さんを見て、「鼻までが<赤鼻のトナカイ>みたいに光っている。」とも言っている。そのユーモアのセンスは、すごいと思った。
実はぼくも、お笑い芸人になりたいと思っている。去年は、学校の帰りの会で、友達と、何度か、まん才をした。もちろん、自分でセリフを考えた。これが、
けっこううけて、とてもうれしかった。セリフを考えるには、いろんな知識が必要だ。だから、ぼくは、勉強もがんばっている。本もよく読むし、新聞も読む。
好きな事は苦にならない。

 両親の期待に応えようと必死でがんばっていたテオ。テオのお母さんの言うことを読んでぼくは笑った。テオがAマイナスの成績をとった時「このAマ
イナスはとてもほこりです。しかし、テオにここでやめてもらってはこまる。オールAをとってもらわなくてはね。」と言っている。まさに、ぼくの母だ。ぼく
の顔を見たら、「学校の宿題したの?。塾の宿題したの?。ピアノの練習はしたの?。」と聞く。この前、漢字検定六級を受けて一九三点だった。ぼくは満足し
ていたのに、母は、「あと七点はどこへ行ったの?。」とだけ言った。いつもの事だから、「うーん。今、北極のあたりかな。」と返事しておいた。

 マディに教わった通り、両親のしつけを始めたルーイ。でもだんだん不安になっていく。マディも、しつけたつもりが本当はすごくさびしかった。本当
はもっとかまってほしかったんだ。テオも成績でしか評価されていないようでさびしかったのだろう。でも三人とも思いを両親にぶつけて、受けとめてもらっ
た。

 ぼくは、母にこの本を読むようすすめた。母は真剣に読んだ後、にっこり笑って言った。「読めたわ。さあ、ピアノの練習をしましょう。」と。しつけ
はむずかしそうだ。でもこの母と、のんびりしているぼく、あまえんぼうの弟と、ぼくたち兄弟の味方の父(ぼくたちの味方をしていつも母におこられている)
の四人家族、けっこううまくいっている。

◇週10冊以上 SFがお気に入り--武田さん(高島市立新旭北小5年)

 「一番スケールの大きい賞がもらえて、一番うれしい」。担任の早川正子教諭から最優秀賞の知らせを聞き、喜びを爆発させた。

 「勉強するように、よく言われるので、僕も母親をしつけたい」と、英訳本「両親をしつけよう」を手に取った。ストーリーは、「ガリ勉村」に引っ越
し、母親に勉強を強いられても、主人公はユーモアいっぱいに、かわす。その姿に自分自身を重ね合わせ、停学処分にされても「休暇を罰と思うわけ?」と、と
ぼける主人公の言葉に笑い転げた。

 この本を母親に読むように勧めたが、しつけは“失敗”。だが、「僕たち家族、結構うまくいっている」と感想文をまとめた。

 週10冊以上を読む読書家。幼いころ、祖母が読み聞かせをしてくれて本が大好きに。SF作品がお気に入りで、「クライマックスが楽しみで、一気に読んでしまう」と笑う。

 夢は物理学者。難しい算数の問題を見ると、「燃えてくる」。アインシュタインやニュートンの伝記を読み、「すごい法則を作ってみたい」と話す。

 第2希望の夢は「お笑い芸人」。教室で仲間に何度も漫才を披露したことがあり、「たくさんの人を笑わせるのも好き」と照れた。

両親をしつけよう! (文研じゅべにーる)
両親をしつけよう! (文研じゅべにーる) ピート ジョンソン Pete Johnson 岡本 浜江

おすすめ平均
stars課題図書だけど面白い

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●内閣総理大臣賞 中学校の部

  • 埼玉県川越市立大東西中学校 3年 相原 理史さん
  • 「世界一おいしい火山の本:チョコやココアで噴火実験」を読んで

 「なんて、大きな水たまりなんだ!」

アスファルトの道路が、大きな水たまりに向かって延びています。水たまりの先には、右にカーブをしながら、山の上の方に向かっていく道路の続きが見
えました。これは、五年前に、北海道の有珠山で、僕が目にした光景です。道路が水没している奇妙な光景に、僕は息を呑みました。水たまりには、電柱が斜め
に突き刺さっています。傾いた家の屋根から下が、水に浸かっていました。

 この、「世界一おいしい火山の本」で、五年前に目にした光景が写った写真を見たとき僕は、あのとき心に抱いた、自然へのおそれを思い出しました。
水たまりを左に見ながら、坂道を登っていくと足の裏に地面の熱気が伝わってきました。鼻を突くにおい、地面のあちこちから立ち上っている白い煙……。「生
きている地球」を見せつけられた思いでした。

 僕は、理科が大好きです。実験や観察の時間は、楽しくてわくわくします。物質の性質を、目で見て確認したり、自然界の仕組みの神秘に触れることが
できたりするからです。でも、「火山」の分野は勝手が違いました。教科書には、火山の爆発の様子を再現する実験などありません。実感に欠けるこの分野に
は、少々違和感がありました。

 この本では、火山に関する色々な現象を、身近にある食べ物を使って再現する実験がたくさん紹介されています。チョコレート、牛乳、スポンジケー
キ、コンデンスミルク……。用意する物だけを見たら、お菓子作りの本かと思うほどです。正に「世界一おいしい」実験です。僕が何より感心したのは、著者の
林信太郎さんの柔軟な発想です。「コーラを使った火山実験」を読んだとき、僕は衝撃を受けました。いたずらで、よく振った炭酸飲料入りのペットボトルの蓋
を開けたときのことを思い出したのです。中身が、予想以上にすごい勢いで飛び出してきて驚きました。林さんは、ペットボトルの中身が吹き出す様子を火山が
噴火するときの噴煙柱に見立てています。コーラと火山、一見何の関係もない物を、科学的な根拠に基づいて、結びつけているのです。この柔軟な発想を、生み
出しているものは、何なのでしょうか。一つは、林さんの火山に関する深い専門性、もう一つは、専門分野を超越した幅広い知識と想像力だと思います。料理
は、研究で世界中を飛び回る林さんの息抜きであり、エネルキーの源です。そして、その二つを結びつけて出来た、「身近な材料で行う火山の実験」を、「キッ
チン地球科学」、そして自らを、「キッチン火山学者」と名付けています。この遊び心、研究に没頭するばかりではなく、生活を楽しむ余裕のようなものが、柔
軟な発想を生み出すのだと思いました。同時に、僕はここに科学の新しい方向性を感じました。それは、それぞれの研究者が持つ専門分野の深い知識を、横につ
なごうとする科学です。科学が発達し、専門分野の細分化が進めば進むほど、「キッチン地球科学」のような、全く別の分野を結びつける新しい科学が生み出さ
れていくのではないかと思いました。また、それには、林さんのような想像力豊かで、しなやかな発想が求められるのだと感じました。

 また、僕は、林さんの、研究者としての真摯な態度にも心を動かされました。この本では、実験に使用するココアのメーカー名が指定されています。実
験の手順やヒントも、とても適切で具体的です。僕も、本に従って実際に実験をしてみたのでよく分かります。これらは、全て試行錯誤の繰り返しから生み出さ
れたのだと思いました。科学の発達や新しい技術の開発は、このように、研究者一人一人の情熱と地道な努力によって支えられているのだと感じました。

 僕が有珠山で目にした大きな水たまりが出来た原因は、「潜在溶岩ドーム」というものなのだそうです。そこで、本を見ながら「チョコレートを使って
潜在溶岩ドーム実験」を行ってみました。ココアで作った山の下からガナッシュクリームの溶岩を注入していくのですが、その速さの調節が難しくて、三回失敗
しました。四度目に、山頂に割れ目が上手に入り、ココアの山が溶岩によって動いていく様子を観察することが出来ました。目の前にあるココアの山に、五年前
に見た情景が再現されていました。「生きている地球」のどんな自然現象にも、原因と、それが引き起こされる条件が存在することに気づきました。

 火山活動は、人間にとって、あまりにもスケールが大きく、起きた時にもたらされる被害の規模も莫大です。有珠山での僕のように、その力におそれば
かりを抱いてしまいがちです。でも、正しい知識を持つことで、自然の猛威を、しなやかにかわすことが出来るのです。科学が発達した現代だからこそ可能な、
自然との共存の方法です。林さんの、しなやかな頭脳と科学者としての厳しさは、僕の目を大きく広く開いてくれました。

◇兄弟そろって「やったじゃん」--相原理史さん(15)=川越市立大東西中3年

 帰宅して、担任の先生からの電話で受賞を知りました。「おめでとうございます」と祝福していただきましたが、改まった話し方だったので、何か(まずいことを)したかな、と驚いてしまって。最優秀賞になるとは思っていませんでした。

 小学5年の弟(啓晴(たかはる)君)も3年前、内閣総理大臣賞に選ばれました。兄弟そろっての受賞に、弟も「兄ちゃん、やったじゃん」と喜び、ようやく実感がわきました。

 理科の実験が好きです。本を選ぶ時、「チョコやココアで噴火実験 世界一おいしい火山の本」という斬新なタイトルに興味がわき、著者の柔軟で視野
の広い考え方にひかれ一気に読みました。小学5年の夏に家族旅行で、噴火の跡が残る北海道・有珠山を訪れた時の光景を思い出し、冒頭の文章になりました。

 気になることは放っておかず調べたくなります。気になる個所に付せんを付け、メモをしながら読み進めました。本で紹介されている料理を使った実験も、実際に自宅で試してみて納得しました。

 普段は小説や評論などさまざまな分野の本を読みます。場面や状況などを想像しながら読むのが楽しい。高校受験が終わったら、また、ゆっくりと本を読めることが楽しみです。

第53回青少年読書感想文全国コンクール:相原さんに最優秀賞 /埼玉 – 毎日jp(毎日新聞)

世界一おいしい火山の本―チョコやココアで噴火実験 (自然とともに)
世界一おいしい火山の本―チョコやココアで噴火実験 (自然とともに) 林 信太郎

おすすめ平均
starsチョコーレートーとのナガレル溶岩

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●内閣総理大臣賞 高等学校の部

  • 山形県羽黒高等学校 2年 小泉 太陽さん
  • 生きる意味

 最後のページを閉じた時、既に午前一時を廻っていた。身体は疲れきっているのに全然眠くならなかった。何故?戦争(紛争)に対する憤り?戦火の中、力強く生きるカリームへの賞讃?確かにそれもあったけれど、それだけではない何かを僕は感じていた。

 イスラエル占領下のパレスチナに住む十二歳の少年カリームの夢は、サッカーのW杯で祖国パレスチナの国旗を胸にピッチに立ち、チャンピオンになる
こと。しかし、頻繁に発令されるイスラエルによる外出禁止令のために思うようにサッカーの練習ができない。外出禁止令が解除されても、砲弾や銃撃によって
破壊され街は瓦礫の山。それでもカリームは、夢に向かって自分達のサッカーグランドという砦を作り、力強く生きていく--。

 二〇〇二年、僕がカリームと同じ十二歳の時、日本は日韓共催W杯でサッカーに沸き返っていた。僕も小学校最後の少年サッカーで様々な大会に出場
し、将来は日の丸を胸に、あのピッチに立つ自分を夢見ていた。僕は今十七歳、カリームの兄ジャマールと同じ歳。僕が無心にボールを追いかけていたあの頃も
パレスチナでは紛争の中、少年達は銃弾を避けながらボールを蹴っていたのだろうか。

 平和な日本に生まれ育った僕は、読み進むにつれて日本が戦争をしていた遠い昔の話のような錯覚に陥った。しかし、随所に出てくる携帯電話やコン
ピューターゲームが生々しくリアルで、これは二十一世紀の今、起こっていることなのだと痛感させられる。僕が夢の実現のために、まだ、ひたすらボールを追
いかけている今、パレスチナでは同じ年頃の少年達がパレスチナ解放のために戦っている。

 イスラエルとパレスチナの紛争は複雑な政治や宗教問題が絡み合い、単純に領土の奪い合いというだけではない。第三者が簡単に介入できる問題ではな
いのだろう。しかし、国家という強力な化け物の前では、ちっぼけな“個人”はいつも抗うことなく犠牲になる。オリーブ畑に収穫に来た老人だったり、襲撃の
あった現場の近くにいただけの人だったり。それぞれの想いの中には、不条理や理不尽を考えることもあったはずだが、流れには逆らえず悲劇が重なる。カリー
ムの“やりたいこと”の三番目は“パレスチナを解放する国家の英雄。”それは殉教と呼ばれる自爆攻撃をも意味する。

 憎しみからは憎しみしか生まれないはずなのに、イスラエルはパレスチナを、パレスチナはイスラエルを憎む。だが、決してイスラエル人もパレスチナ
人も憎み合ってはいない。兵士であれテロリストであれ、必ず誰かの親であったり、娘や息子であったり、恋人であったり、大切な存在なのだ。カリームは大お
じの「やつらも普通の人間なんだよ」という言葉を怒りでしか受け取ることができなかった。しかし、籠城した自動車の中から覗いたイスラエル兵士の顔が兄の
ジャマールと重なり、突然理解する。皆たった一つの命を持つひとりの人間なのだ。

 自動車から飛び出し、敵と戦わず逃げることで生き抜くことを選んだカリームは、自分の命と敵の命も守ったのだ。生きて自由を得るために。占領され
ても、捕まって拷問を受けても、人間の意思までも拘束することはできない。結局は子猫を戦車で轢いてしまった兵士も、命令という束縛のない世界では子猫を
かわいがる。そこには彼の自由な心があったからだ。戦って命を落としてしまえば、最後に残された心の自由も失ってしまう。

 外出禁止令の中、必死で逃げるカリーム。弾丸がカリームの横を擦って飛んでくる。容赦なく襲ってくる銃撃から逃げる恐怖は、どれほどのものだろう。たった十二歳の少年が撃たれても逃げる原動力、それは自由を得るために生き抜く人間の大きな力に違いない。

 現代に生きる世界中の紛争下の少年達は、例えば日本に住む僕達のように、何の不自由もなく思いきりサッカーができる環境があることも知っているだ
ろう。それでもカリームは自分の置かれている環境を受け入れ、本当の“やりたいこと”を見つけ出す。普通に学校に通い、普通にサッカーをし、普通に恋を
し、普通に暮らす、それはとりもなおさず他人に支配されることなく人間が自由に生きることなのだ。例えどのような環境に生まれても、他人の自由を尊重し、
ひとり一人が責任をもって自由の意思で選択し、人生を自由に生き抜く、カリームとホッパーは、戦車によって再び破壊されたグランドを大人の力を借りず、自
分達だけで取り戻す決意をする。

 与えられた命の限り、自由の砦を守るために精一杯生き抜く。困難はあるだろう、壁にもあたるだろう、それでも生き抜く。まだ十七年の、始まったばかりの僕の人生で生きる意味が少しわかった気がした。

◇主人公に自分重ね--私立羽黒高2年・小泉太陽君(17)

 受賞を聞いたのは、所属するサッカー部の遠征先ブラジルからの帰国便で、乗り継いだ米国のアトランタで。家族からの電話に「ただもう本当にびっくり」。チームメートから「すごいなあ」と称賛され、喜びを実感したとはにかんだ。

 本好きのサッカー少年。書店で本を選ぶうち、自分と同じ小学1年でサッカーを始めた主人公に興味を持ち、一気に読み切った。イスラエル占領下のパレスチナで、ワールドカップ(W杯)チャンピオンを夢見てボールをける主人公に、自らを重ね合わせた。

 紛争のさなかにありながら、戦車に破壊されたグラウンドを取り戻そうと、たくましく生きる主人公に「どんな環境に生まれても、自由を得るために力強く生き抜くことを学んだ」と熱く語った。

 夢は「プロのサッカー選手になりたい」。日の丸を胸にW杯のピッチに立つ夢よりもまず先に、全国一の栄誉を獲得した今回の受賞。幼いころから抱いてきたサッカーの夢を目指す思いが、さらに強まった。【長南里香】

青少年読書感想文全国コンクール:最優秀賞に小泉君 /山形 – 毎日jp(毎日新聞)

ぼくたちの砦
ぼくたちの砦 エリザベス レアード Elizabeth Laird 石谷 尚子

おすすめ平均
stars「安穏」であることの困難
starsパレスチナの民衆が生き生きと描かれた本

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